商店街から少し奥まった路地に入り込むと、三角屋根に外壁が蔦に覆われたブラウンの建物。
入り口には『純喫茶トルンカ』
昔懐かしの純喫茶。
味のあるテーブル席と、カウンターがあり、そこには寡黙なマスターと、その娘。
店内には謎のお面や、ピンクの電話。
ステンドグラスの窓からはやわらかな日差しが音もなく降ってくる。
そこはコーヒーと懐かしい香りがたくさんつまった場所。
そんな純喫茶をメインに、3つの心温まるお話で構成されている小説を紹介します。
純喫茶トルンカ
著者:八木沢里志 出版社:徳間文庫
1. 日曜日のバレリーナ
2. 再会の街
3. 恋の雫
『日曜日のバレリーナ』
主人公は『純喫茶トルンカ』でバイトをしている大学生の修一。
年の瀬も迫った時期に、突如現れた大人しい女性、雪村千夏。
初めて会ったにも関わらず、『前世では恋人だった』と言われる修一。
最初は引き気味だった修一だが、意外な一面を知ったり、過ごす時間が増えていく度に、雪村千夏に惹かれていくお話し。
千夏は大人しく控えめな女性だけど、実は仕事は作業服を着て工場勤務していたり。
修一は過去に色々とあり、年齢の割には達観してしまっていたり。
そんな2人が少しずつ距離を縮めていく様子に、ほっこりとした気持ちになれる作品です。
『再会の街』
50代のおじさんが主人公。
思い出のつまった街に、30数年ぶりに帰ってきたヒロさんのお話し。
『純喫茶トルンカ』が『ノムラ珈琲』だった頃。
当時付き合っていた女性と一緒に過ごした思い出の地。
なぜ今更になって戻ってきたのか、その理由が切ない。
その女性は数年前に病気で亡くなっていたが、別れた後に結婚し子供がいることを知ったヒロさんが、その娘、絢子に会うのだが…。
このヒロさんがとてつもなく不器用で、ダメな男だけど、変わろうとする姿に思わずホロリとしました。
娘の絢子も、すごく素直で明るくて、ヒロさんとのやりとりが本当の親子のようでほっこりします。
当時付き合っていた女性と住んでいた、狭く西日の強い畳の一室で過ごす幸せな時間の描写に、じんわりと温かい気持ちになること間違いなしです。
3作の中で1番好きなお話しです。
『恋の雫』
最後は、『純喫茶トルンカ』の看板娘、高校生の雫の恋のお話し。
実は雫には歳の離れた姉がいたが、病気で亡くなっており、姉が当時付き合っていた荻野さんに再会することによって、雫が成長していく様子が切なくも新鮮な気持ちにしてくれる作品です。
幼馴染の浩太との本気のケンカをしてしまい落ち込んだり、姉の命日が近づくと気持ちが不安定になりコントロールできなくなったり。
何事も全力でぶつかっていく雫の真っ直ぐなところが、とても魅力的に伝わってきました。
どの作品も違った味があって、豆の種類を変えながら読みたくなる一冊です。
ぜひ、コーヒーと一緒に本書も味わいながら、ゆっくりとした時間を過ごしてみてください。
より味わい深い時間を楽しめますよ。

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